最近、いろいろなところで目にするのが、次の700/900MHz帯を誰が取るのか、と言うこと、それに付随して、これらの帯域を「プラチナバンド」と呼んで万能視する流れなのですが、これに関してはちょっ...

最近、いろいろなところで目にするのが、次の700/900MHz帯を誰が取るのか、と言うこと、それに付随して、これらの帯域を「プラチナバンド」と呼んで万能視する流れなのですが、これに関してはちょっと言いたいところがありまして、簡単にまとめて見ます。 700/900MHz帯の割当が近い今日この頃ですが、特にソフトバンクについて、「900MHzさえ手に入れば繋がらない問題などが全て解決する」と言う論調があまりに幅を利かせていて、これはもう完全に某氏の過剰宣伝に洗脳されているところが無くもないわけで、その辺の現実をある程度分析させていただきます。 と言うのも、900MHzを手に入れれば全てが解決する、と言うのはまず基本的には「嘘」です。確かに900MHz帯のほうが、2GHz帯よりも、電波の減衰が小さいのは事実です。しかし、過去に何度か書いたかもしれませんが、電波に関しては「飛ばす技術」よりも「飛ばさない技術」のほうがはるかに重要なんです。 もちろん出力を落とせば飛ばない、これ当たり前。なんですが、「設計どおりのところにはきっちり飛ばすけどそれ以外の場所には飛ばさない」と言うことなんです。これを行うためには、たとえば、地上2mくらいの低い位置にアンテナを置いて飛ばす、なんてことをやると完全にアウトです。 飛ばさないようにするには、非常に高い位置から吹き降ろすように電波を発射することが必要です。だからこそ、携帯電話の基地局は高い位置にアンテナを据えつけるわけです。また、鉛直面内の指向性をアンテナに持たせなければならない都合上、直列アレイ型のアンテナを使わなければなりません。 高い周波数であれば自然に減衰してくれるので、ほどほどの高さからほどほどの角度で吹き降ろせばよく、逆に低い周波数の「飛ぶ」恩恵を受けつつもきっちりと「飛ばさない」ためには高い位置から角度をつけて吹かなければなりません。細かい議論を考えればずれてきますが、これはもう大雑把に周波数に反比例すると思って良いです。 また、アンテナの素子サイズ、こちらはほぼ厳密に周波数に反比例します。それを直列アレイで並べなければならないため、アンテナ全体のサイズも周波数に反比例します。 要するに、900MHzの基地局に関しては、2GHz基地局に比べると「鉄塔の高さはほぼ2倍」「アンテナのサイズもほぼ2倍」と言うことが言えるわけです(もちろん厳密には違います)。 でこれはもう勘所の話になるので厳密な話ではなく恐縮ですが、「寸法が倍」ってことは、面積は4倍、体積は8倍です。従来の4倍の面積の土地を必要とし、8倍の重量の躯体となる、と言うことです。従来の2GHz基地局とは何から何まで違います。当然併設なんて出来る話ではありません。 つまり、ロケーションも設備もこれから新たに手当てしなければなりません。ドコモが1990年代にPDCでコツコツとエリアを広げてきた、あの努力を再現しなければならないんです。ドコモはその努力の結果、800MHzに対応したロケーションと設備を持ち、そこにFOMA 800MHzを併設することで「プラスエリア」の広大なエリアを一挙に構築できました。残念ながらソフトバンクにはそれをする基礎がありません。「ドコモがプラスエリアを広げたようにエリアを広げる」ことは絶対にありえないというわけです。もちろん、入手したウィルコムのロケーションも使えません。1.9G用の設計であるウィルコムロケーションは、2GHz帯には転用できても、900MHz帯には絶対に転用できません(聞いたところ、ウィルコムロケーションにおいているのは結局1.5G局ではなく2G局だそうです)。 最近、割当が決まってもいないのに900MHz用のロケーションの手配をしている、なんていうニュースが出ていましたが、それはもっともな話で、はっきりいって再利用できるロケーションと設備が無いためゼロからやり直し、割当をもらってから始めても何年もかかってようやく追いつけるかどうかと言うくらいに、低い周波数帯の整備は大変だからなんです。これだけの勇み足でも、おそらく当面は全く整備が追いつかないと思います。ともかく900MHz帯は、資本的コストも時間的コストも非常に高額になる帯域だということが意図的に無視されている気がするんですよね。 また、端末の問題もあります。よく「iPhoneが900MHzに対応しているからそのまま使える」と言う議論がありますが、日本の900MHzは、近くにドコモ850MHzがあるため、与干渉の基準をクリアしなければなりません。現行の標準で作ったものは(たまたまクリアできるものもありますが)基本的にこの基準がクリアできることを試験できていません。たまたまクリアできても試験を通していないものは「クリアできない」扱いで電波法違反。つまり、端末も全て準備しなおしです。 いや、一生懸命ソフトバンクを貶すばかりの議論になってしまっていますが、ちょっと最近の「900さえ取れればなんとかなる」的な論調があまりに浅薄でイラついていて、こんな感じになっちゃってるところもあって、ちょっとごめんなさいしておきます。 ちなみに、もしドコモやKDDIが900を取れたら、現行の800MHz用の設備をほぼ再利用可能なので、あっという間に全国にエリアが広がります。700も基本は同じ。 「プラチナバンド」と言って利点ばかりがもてはやされることが多いのですが、それらの利点があっても余りあるほど「高コスト」なのが、このプラチナバンド。「プラチナ」が単に「優れている」だけでなく「お値段が高い」と言う意味も含んでそう呼ぶのであれば、まさに的を射た表現ではあるんですけどね。 と言うことでプラチナバンドに関してこういう意見もありますよのお話でした。プラチナバンドは万能か | 無線にゃん